世界三大ゲームショウChinaJoyレポートvol.2 「中国のモバイル広告トレンド」| 海外アプリ広告担当 村上の海外Appジャーナル

Zucksの海外アプリ広告担当者 村上が国外のアプリ情報をお伝えする連載「海外Appジャーナル」。7月26〜30日に村上が視察した世界最大級のゲーム展示会ChinaJoy 2017の様子から、中国アプリ市場のトレンドをご紹介します。

今回のテーマは、「中国のモバイル広告」について。
広告配信はアプリの収益化に欠かせないものですが、中国市場ではどのようなモバイル広告が流行り、広告事業者にはどのようなプレイヤーが存在しているのでしょうか?

広告トレンドは新しい形へ、プレイ可能な広告や、GPSを利用したものも登場

まずは、広告形式のトレンドから解説を行っていきましょう。
あくまで体感ではありますが、中国産アプリをプレイして見かける広告は動画形式がメインで、バナーなどはほぼ見ることがありません。また、数は少ないですが「プレイアブルアド」と言って、30秒〜1分程度の体験版ゲームがプレイできる広告も見られました。

そのほか、「ジオターゲティング」と呼ばれる広告サービスを開始する企業もいます。これは端末のGPS情報からユーザーの現在地を把握し、近隣店舗の広告を配信する広告です。ジオターゲティングは、ユーザーの行動範囲に沿った広告を配信できるので、高い効果が見込めるほか、配信後の来店状況も確認できるため、新しい形の広告として注目を集めている様子です

これらの中国国内の広告トレンドは、世界のモバイル広告運用トレンドと共通しているところが多く、今回のChinaJoyでは見ることができませんでした。

海外事業者に押され気味の中国モバイル広告業界

次に、中国国内のディベロッパーがどのような広告事業者を使っているのかを紹介しましょう。

私が視察したゲームショウ「ChinaJoy」でディベロッパーの方々に「どのような広告事業者を使ってますか?」と聞いたところ、おおまかな傾向が見えてきました。

まず、最もよく使われていた広告事業者はGoogle。中国のアプリディベロッパーのほとんどは、収益性を高めるために企画段階からアプリの海外展開を視野に入れて制作を始めます。

Googleは全世界で大きなシェアを占めている検索プラットフォームです。そのため、広く海外にアピールできる広告事業者として、ディベロッパーに利用されているのでしょう。同様の理由で、全世界に数多くのユーザーを抱えるFacebookも人気がある広告事業者でした。

また、動画リワードの流行にともない、動画系事業者を選ぶディベロッパーも増えています。名前を聞くことが多かった事業者は、アメリカで創業した動画系アドネットワーク「AppLovin(アップラビン)」や、同じくアメリカの「Vungle(バングル)」、ゲーム開発プラットフォームUnityが提供する「Unity Ads(ユニティアズ)」など。これらの企業はいずれも世界各地にネットワークを持ち、モバイル向け動画広告に強みを持つ会社です。

印象的だったことは、昨年よりも中国資本の事業者「AdColony(アドコロニー)」を選ぶディベロッパーが増えていたこと。AdColonyはノルウェーで創業したアドネットワークの会社で、2016年に中国の投資会社「コンソーシアム」に買収されています。利用者の増加はこの買収と無関係ではないでしょう。

そのほかに、少数派ですが、中国国内の広告事業者アドネットワーク「Mobvista(モブビスタ)」や、2016年に中国企業に買収されたSSP事業者の「Smaato(スマート)」を利用しているという声も聞くことができました。

中国三大IT企業がモバイル広告業界に相次いで参入

先ほどご紹介した広告事業者はほとんどが中国国外の企業ですが、中国国内の企業も続々とモバイル広告への参入を進めているようです。結果、モバイル広告の市場規模は急激に伸び、2015年の売上高は動画広告だけで36億元(約600億円)を超えました。
※2015年第4四半期(10-12月)中国オンライン動画広告市場季度監測より

中国国内でモバイル広告に参入を進めている主な企業は、中国を代表する以下3社のIT企業です。

百度(バイドゥ)
⇒中国国内で7割のシェアを占める最大の検索プラットフォーム「百度」を運営する企業。地図サービスやオンライン百科事典、旅行検索サービスなど幅広いインターネットサービスを手がけるほか、日本でも有名なキーボードアプリ「Simeji」などのアプリも開発しています。

阿里巴巴(アリババ)
⇒中国国内最大のECサイトを運営する企業。運営しているECサイトはB2B、B2C、C2Cを網羅しており、取引額・ユーザー数ともに中国国内最大のECプラットフォームになっています。

Tencent(テンセント)
⇒「QQ」「WeChat」「Tencent Video」などのWebサイトやアプリを運営するIT企業で、全サービスの合計DAUは約8億。これらのプラットフォームに広告を配信できるほか、テンセント以外の媒体にも配信が可能です。

これら3つの会社は、「インターネット」と名前のつくものであれば手広く事業展開を進めている企業。それぞれ資本力も強く、企業買収も積極的に行っているため、中国のモバイル広告市場は今後大きく拡大していくのではないでしょうか。

これらの巨大企業に引っ張られるような形で、ChinaJoyでは新興モバイル広告事業者のブースがあちらにもこちらにも数え切れないほど設けられていました。

それらの新興事業者ブースは、大企業のブースのように大規模なものも多く、中国モバイル広告市場の急激な成長を象徴しているようです。

これらの中国企業は、その資本力を武器に海外の事業者を積極的に買収しています。その対象となる企業は広告事業者だけではありません。「クラッシュ・オブ・クラン」を開発したディベロッパーSupercellや、日本のゲーム会社SNKが所有している「キング・オブ・ファイターズ」シリーズのIPが買収されるなど、アプリマーケティングに関わる様々な企業が買収されているのです。

近年グローバル展開が当たり前になったアプリ業界で、中国企業は無視できない存在になってくるでしょう。今後もその動向に注目していきたいところです。

次回は、ChinaJoyで特に印象的だった「IPタイトル」のトレンドについてご紹介します。