Pokémon GOのプロダクトマネージャーが振り返る、リリースからの1年間【APPS JAPAN レポートvol.1】

2016年7月にリリースされ、公開1ヶ月で1億3000万DLを記録したポケモンGo。日本では社会現象を起こし、リリース開始から数ヶ月は、どこに出かけてもポケモントレーナーの姿を見かけない日はなかったと思います。

6月7〜9日に幕張メッセで開催されたアプリの祭典「APPS JAPAN」では、アプリマーケティングに関わる講演会が多数開催され、ポケモンGoを開発したナイアンティック社のプロダクトマネージャー河合敬一さんが登壇しました。

この記事では、「ポケモンGoのプロダクトマネージャーが振り返る、リリースからの1年間」と題して、河合敬一さんの講演会の様子をレポートします。

Pokémon GOをリリースした、ナイアンティック社が生まれた背景とは?

Pokémon GOを開発したナイアンティック社は、Googleの社内スタートアップとして生まれた企業です。

ナイアンティックが生まれた背景には、「外はいい天気なのに、子供はスマホやモニターに向かってばかり。外に出かけてもらうにはどうすればいいのか?」という問題意識がありました。

その問題意識を解決するためにGoogleのプロダクト「Google map」を活用しようと考えたことからナイアンティック社が生まれたのです。

河合敬一さん(以下、河合)「Google mapがそうですが、地図はお店に行く時、待ち合わせ場所に向かう時など、どこかに行こうと思った時に開くものですよね。だから、地図そのものがあっても外に出かける後押しはできません。それならば、ゲームを使って地図上に目的地を作ってしまえばいい。そのアイデアから生まれたのが、Ingress(イングレス)です」

Ingressは、スマホのGPSの機能とマップ機能を使い、プレイヤーが街を歩いて陣取りを行うアプリ。200カ国以上でプレイされ、総DL(ダウンロード)数は2000万以上にもなるビッグタイトルです。

河合「あるプレイヤーは子供の散歩をしながら、あるプレイヤーはヘリコプターで上空から陣地をとり、時に国をまたいだ共同作戦が行われ、プレイヤーの中にはIngressがきっかけで結婚する方も現れました。私たちも公開するまではここまで人が動いてくれるとは、思っていなかったです」

ゲームが現実と混ざり合い人を動かしていく、現実を拡張するプラットフォームになったIngressの成功から、Pokémon GOが生まれる土台が整い始めます。

日本リリースが遅れた理由は、想定外のトラフィックが原因だった

河合「ナイアンティックがIngressの次の一手としてリリースしたPokémon GOですが、その前身となったのはGoogleのエイプリルフール企画でした。

1日限定で、Google mapにポケモンのアイコンが表示されて、それを捕まえるゲームがリリースされたんです。このゲームが好評で、1日だけじゃもったいないということで、任天堂さんと株式会社ポケモンさんと一緒にプロジェクトが動き出しました。

ポケモン世代が子供の頃に思い描いた、『自分自身がモンスターを捕まえる』ことを実現するPokémon GOは、スマホの普及やデータ通信網の整備、地図などのロケーションサービスの整備、DCBなどの課金サービスなど、様々な条件が重なったから可能になったゲームだと思います」

製品のβ版が完成し、先行してアメリカでリリースされたPokémon GOは、リリース後に思わぬ反響を生みます。なんと、想定の50倍ものトラフィック(アクセス数)が集まったのです。

河合「公開してみた結果がこちらです。オレンジの線がここまで行ったらいいよねと社内で話していたライン。赤い線がサーバーの限界。そして緑色の線が実際のラインです。実際には予想を大きく上回るトラフィックになりました。

当時は数人しかサーバーチームがいなかったので、私も寝ないで対応していたんです(笑)アメリカでの公開から日本での公開までには少し期間が空いてしまいましたが、それは予想外のトラフィックが原因でした」

7億5000万DLの圧倒的な成功

その後はみなさんもご存知の通り。日本では社会現象が起き、リリース後の約1年で、Pokémon GOは全世界のプレイヤーがプレイするアプリに成長しました。

総DL数は全世界で7億5000万。全世界で880億のポケモンが捕まられ、プレイヤーの総移動距離は87億キロに(この距離は太陽系で最も遠い惑星「海王星」をさらに超える距離だそうです)。ユーザー層は、ミレニアル世代(2000年以降に成人になった世代)を中心に、50〜60代など普段はゲームをしない世代もゲームをプレイしています。

河合「50〜60代のユーザーの方はお孫さんと一緒に遊ぶためにアプリをダウンロードしているそうです。
私の母もプレイヤーのひとりで、昨日レベル36になりました(笑)母はウォーキングの途中でアプリを開いているようで、Pokémon GOがあることで、『もう少し歩こうかな』と思うようになったと話しています。

幅広いユーザーに支持されたことと、ロケーションを活用したゲームという特徴から、Pokémon GOは横須賀市や大阪などの地域振興に使われるようになり、復興支援のイベントも開催できるようになりました。

レアキャラ『ラプラス』が東北限定で10日間出現するイベントを開いた時には、石巻市だけで10万人以上、20億円以上の経済効果があったそうで驚きましたね」

ゲームの中のキャラクターやアイテムを求め、ユーザーがアクションを起こす。今までにない行動を生むアプリになったPokémon GOは、新しいマネタイズ手法を生み出しました。それが「ロケーションビジネス」です。

「リアル×バーチャル」で生まれた新しいマネタイズ手法

河合「Pokémon GOやIngressのデータを分析した結果、ゲーム内のスポットに合わせて、道の交通量が増えているんです。

たとえば、アメリカでお客さんが来なくて閉店しようと思っていたアイス屋さんがありました。その店の前にポケストップができて、人通りが増えたことで繁盛店になり、お礼に食べきれないくらいのアイスをいただきましたよ(笑)

それでですね、人の動線を変えられるなら、ビジネスにも活かせるんじゃないかと思ったんです。」

ナイアンティック社は、Pokémon GOやIngressで、スポンサー企業とパートナーシップを結んでいます。

日本ではマクドナルドが、ローンチパートナーになり、店舗をポケストップにすることで売り上げが25%も上がりました。

国内ではAEONやSoftbank、セブンイレブンなどのリアルな店舗がポケストップになり、世界では35000以上のスポンサーロケーションが行われているそうです。

今まで、スマホアプリのマネタイズは、ゲーム内の課金や広告収入に限られていました。一方、ナイアンティック社が行っているのは、企業のパートナーシップを活用した協業マネタイズです。

河合「Pokémon GOはアプリ内課金のポイントを少なくしていますが、それは企業の方々のスポンサードがあるからです。ユーザーと企業の両輪でマネタイズができているので、ユーザーからお金をあまりいただかずにできていることがありがたいです。

今後、ナイアンティックでは、ウェアラブルなARデバイスを活用したゲームや、ロケーションビジネスを発展させた地方活性化ビジネスも行っていきたいと思います。

東京から地方へ、地方から東京へ、ゲームを使って人が流動できるきっかけを作りたい。ゲームを使って地域の路地に埋もれている魅力的なものに気づいてもらいたい。そのためにできることは、まだまだたくさんあるのです」

これまで、ゲームと現実の間には見えない壁が築かれていたように思います。しかし、Pokémon GOが世の中に広まってから、ゲームは現実を拡張できる可能性を手に入れたのではないでしょうか。

リアルとバーチャルが密接につながりつつある現代で、これからどのようなゲームやアプリが生まれるのでしょうか。ナイアンティック社の次の動きに期待が集まります。