焚き火アプリが50万超ダウンロード!あそぶ株式会社に聞く、長く愛されるアプリの作り方|あやんせが行く! vol.16


株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリ関連業界人を訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。第16回目となる今回は、2017年に大ヒットした元祖焚き火アプリ「焚き火」をリリースした、あそぶ株式会社さんにお話を伺いました。

高画質な焚き火を眺める「焚き火」は、一切プロモーションを行わずヒットアプリになったそうです。なぜそのようなことが可能だったのか?その秘密に迫ります。

今回お話を伺った人

◎あそぶ株式会社 CEO酒井智啓
◎あそぶ株式会社 ディレクター矢代蔵人

アプリは事業の一部、マルチなプロモーションを手がける“あそぶ株式会社”とは

− あそぶ株式会社さんは、アプリ運営だけでなくプロモーションなどの事業をされていますよね?具体的な事業内容を教えてください!

酒井智啓さん(以下、酒井):僕たちの事業は、スポーツアウトドア分野に特化したプロモーションや企画、クリエイティブが主体で、アプリはその一部なんです。僕らの強みはクリエイティブをマルチにこなせること。クライアントの要望をヒアリングして、紙やWebなどのデザインだけでなく、キャンペーンや展示会などのイベント、店舗デザインやアプリの開発など、総合的に対応させてもらっています。

− まるで広告代理店みたいですね!

酒井:そうですね。デザインだけでなく、企画やディレクションも得意分野です。クライアントの要望をもとに、「では、こういう方法はいかがでしょう?」と提案しているので、事業はコンサルティングファームに近いかもしれません。

− 今までにどのようなプロジェクトを進めてきましたか?

酒井:プロジェクトはSnow PeakやColeman、CHUMSなどのアウトドアメーカーを中心に、様々な企業から依頼を受けています。

たとえば、Boschという電動工具メーカーのプロジェクトでは、ブランドイメージを刷新するため、映像ディレクションなどを中心に若い世代へのプロモーションを行いました。共同キャンペーンとして、アウトドア業界とビジネス業界の橋渡し的なプロジェクトも多数手がけています。

ほかには、自社プロジェクトですが「アウトドアオフィス」というイベントも主催しています。これは様々な企業が集まって、平日にキャンプをしながら仕事をしよう、というイベントなんです。

− 外で仕事できるなんてすごく楽しそう!!私もアウトドア大好きなんですよ~!

酒井:実はイベントの映像があるので、見てもらいましょうか。

酒井:こうやって、キャンプ場にパソコンを持ち込んで、テントやタープを張って仕事をします。2017年には40社以上の企業に参加していただきました。

イベントでは、ほぼ全員と名刺交換する時間を設けて、交流会やヨガのワークショップなど、参加者が楽しめるような時間を設けています。このイベントがきっかけになり、参加企業が協働して新しいプロジェクトも生まれているそうです。2017年には働き方改革の文脈で注目されて、NHKの取材も受けたんですよ。

− すごい!IT業界はパソコンがあればどこでも仕事ができるので、私も参加してみたいです~。

酒井:僕らは社名が「あそぶ」なので、いい意味で遊ぶように楽しみながら仕事ができたらと思っているんです。日本人って、働く時間がものすごく長いじゃないですか。本来は仕事って楽しいことなのに、苦しいものと捉えられがちです。日本人のプロダクトは海外でもリスペクトされているのに、働き方はリスペクトされてない。得意分野を活用して、働き方のイメージを変えていきたいですね。

2014年、映画機材に匹敵するカメラで撮影された、焚き火の映像

− 次に焚き火アプリの「焚き火」についてお聞きしたいです。焚き火を眺めるだけのシンプルなアプリはどのように生まれたのでしょうか?

酒井:「焚き火」が生まれたきっかけは、飲みの席で「焚き火を囲んでお酒が飲める“焚き火Bar”をやりたいね」って話でした。でも都内では難しいから、「アプリ作っちゃおうか!」と(笑)。最初はノリでしたね。

弊社は社内メンバーで頻繁にキャンプに行っているし、アプリを作ったことがなかったので、実績づくりのためにキャンプ場でコンテンツを作ってしまおうという流れになったんです。

そこで、某カメラ機器メーカーに知人がいたので、2014年の当時最先端だった4Kの高感度カメラを借りてキャンプ場に行きました。そのカメラは映画製作に使うようなクオリティの機材だったんです。

− 映像がすごく綺麗すぎて感動していたんですが、4Kで撮られていたんですね。制作時に苦労などはありましたか?

矢代蔵人さん(以下、矢代):当時は4Kのデータを扱える機材が少なかったので、編集作業は大変でした。

ループも気を使ったポイントで、炎って同じ形にならないので、ループさせると不自然に見えてしまうんです。アプリの容量が限られるなか、逆再生してみたり、多重にしてみたり、フレーム単位で調整して、なるべく自然に見えるよう心がけました。音は生音を録音して収録してあるので、映像同様に苦労したポイントですね。ヘビーユーザーだとループのつなぎ目が分かるみたいです(笑)。

そうして映像を編集して、最後はパートナーのプログラマーさんにプログラミングしてもらったんです。自社プロダクトなので、無理はせず、できる範囲でクオリティを高められるだけ高めました。

酒井:「焚き火」には薪をくべる機能が付いているんですが、ここは特にこだわったポイントです。

このアプリは僕らなりの遊びの一環で、「いつか仕事に繋がるんじゃないかな」という感覚で作ったものなんです。最初からマネタイズを考えると面白くなくなってしまうので、ある程度遊びながら、共感してくれる人がお仕事を依頼してくれたらいいなと考えていました。

そういう気持ちで作ったものだから、「焚き火」にも遊びの要素を取り入れたかったんです。僕は、焚き火の楽しさの本質って、薪をくべることだと思うんですよ。自分が行動を起こしたことにリアクションがあると楽しいじゃないですか。このアプリでは、その楽しさを再現したかったし、アプリを作るならインタラクティブにしたかった。

開発当初は、薪をくべる機能も「何言ってるの?」と反対されました。「容量も限られているし、どうやって再現するの?」って。でも、「とりあえず撮ればなんとかなるだろう」と撮影だけして、あとは社内の制作チームにお願いして(笑)炎を大きくしたり小さくしたりするので、編集が難しくなって制作側に苦労をかけてしまいましたが、これは今でも正解だったと思っています。

リリース3年後に突然の大ヒット!その理由は“オーバークオリティ”にあった

− 本当にリアルを求めて、こだわってアプリを製作されたんですね。リリース後の反響はいかがでしたか?「焚き火」のリリースは2014年ですけど、昨年急にダウンロード数が1位になっていたのは、何か理由があったのでしょうか。

矢代:最初は僕らも気づいていなかったんですよ。でも2017年秋頃、営業の電話が増えたんです。話を聞いてみると、「御社のアプリがランキング1位になっています」と。「ウソだろ?」と確かめてみたら本当で驚きました。

原因を調べてみたら、「焚き火」が紹介されたTwitterのリツイートランキングが1位になってたんですよ。起点になったアカウントは有名な方ではなくて、ツイートも1行くらいのコメントとリンクが書かれているシンプルなものでした。リツイート回数は、たしか2万3000だったと思います。

それまでのダウンロード数は、リリースから3年間で累計2万5000くらいでした。雑誌とかではちょこちょこ取り上げられていたんですが、ヒットしていなかったんです。でも、バズ直後は1日平均で3〜5万ダウンロードになり、今だに数千ダウンロードされているので、「改めてSNSってすげー!!」って思いました(笑)

− 焚き火って、累計どのくらいダウンロードされているのですか?

酒井:26週前に累計45万ダウンロードでしたから、100万には届いていないと思います。バズってからは、「アプリに広告を入れませんか?」とか、「ヒットの理由がどうしても知りたいと」とか、様々な問い合わせが来ました。アウトドアカテゴリーの無料アプリで広告を打たずにヒットしたのは異例だったようです。

− 現状DAUはどれくらいなんですか?

矢代:それが、「焚き火」は自社で初めて手がけたアプリで、マネタイズは考えていなかったので解析ツールを入れていないんですよ。なので分かりません。

− 周りではすごく話題になりましたよ!「いきなり焚き火のアプリが伸びてきた!」って。Twitterで取り上げられたこと以外にヒットの要因を教えてもらえませんか?

酒井:要因として考えられるのは「焚き火」の知名度でしょうか。焚き火を知らない人はほぼいないと思うので、分かりやすかったのだと思います。それと、「ボタンを押すと薪がくべられて、炎が大きくなる」というシンプルさもウケた理由ではないでしょうか。

矢代:作った時期が早かったのも関係しているかもしれません。民放の深夜番組で焚き火のコンテンツが紹介されてバズったことがあったんですけど、その前に「焚き火」は登場していましたから。

酒井:それと、映像の質など、こだわった部分が評価されたのかな、と感じています。当時最先端の技術を使ってオーバークオリティ気味に作ったから、ある種の普遍性が生まれたのだと考えています。

僕はもともと映像制作会社だったので、CGは使いたくなかったし、本物の焚き火の映像にとことんこだわりました。あの当時、最先端のクオリティで作ったのは、品質過剰というか、ある種チャレンジングなことだったかもしれません。だからこそ時代が経っても色褪せないものができましたし、普遍性がある「名作」になれたから支持されたのかな、と思うんです。

− ランキングで焚き火を見たときは、新規のアプリかと思いました。映像が綺麗過ぎて、とても3年前にリリースされたアプリとは思えないですもん!

酒井:実はこのアプリって、3年間一度もアップデートしていないんです。でも、最近出したアプリなんですか?と言ってくださるユーザーがいます。

僕は、よくアウトドア用品を買うんですけど、何十年間も形が変わっていない、マスターピースのような道具がいくつもあるんですよ。10年前にこれだけのものを作るって、すごい!って思うような。「焚き火」も4Kの出始めにこれをやったから廃れていないし、「あの時代によくやったな」と言われる出来になっているのだと思います。きっと5年経ってもコンテンツとして成立してると思うんです。

邦楽でいうと、中島みゆきさんとか松任谷由実さんとか、長い間一定のファンがいるミュージシャンがいますよね。映画の曲になった松任谷さんの「ひこうき雲」は40年前の曲ですが古くないし、今聞いても「いいなぁ」と思える。それはメロディや歌詞に普遍性があるからだと思うんです。「焚き火」も同じように、何十年先もダウンロードされ続ける、じわーっとずーっとファンがいてくれるアプリなのかもしれないですね。

− アプリって、ヒット作が出たら同じカテゴリーのアプリがたくさん登場して、数ヶ月後には別の波が来て、の繰り返しなジャンルなんですが、本当によいものを追求してこだわってつくって、長きに渡って愛される「焚き火」は、アプリ業界の新しい例ですね!

Android版のリリース開始、気になる今後の活動について

− 最後に、御社の今後の活動についてお聞きしたいと思います。

矢代:近々、「焚き火」のAndroid版をリリースする予定で、iOS版もアップデートします。ユーザーの声も集まってきたので、その声を参考にUIをよりシンプルにして焚き火を楽しむことに特化させる予定です。

酒井:直近でアプリのリリース予定はAndroid版の「焚き火」だけですが、今後もアプリにはチャレンジしていきたい。アプリを作りたいという人や会社がいれば、僕たちがアイデアを出して一緒に作りたいと考えています。

会社のことで言うと、スポーツアウトドア業界を盛り上げていきたいと思います。アウトドアが好きな人はいっぱいいるのに、それを仕事にできる場所が少ないんです。だから僕たちが仕事を作って、この業界に入ってくる人を増やしたい。弊社もアウトドア好きのクリエイターを募集しているので、ぜひお力を貸して欲しいと思います。

− 本日はどうもありがとうございました!品質にこだわれば普遍性が生まれ、長く愛されるアプリができる、というお話はとても参考になりました。今後リリースされるアプリにも期待しています!

・あそぶ株式会社のHP ⇒ https://www.asov.co.jp/
・あそぶ株式会社の求人ページ ⇒ https://www.asov.co.jp/recruit/1233/
・あそぶ株式会社のアプリ一覧はこちら⇒

焚き火
焚き火
開発元:ASOV.Inc
ストーブ
ストーブ
開発元:ASOV.Inc
あやんせ
渋谷で働くIT女子。メディアコンサルタントとしてデベロッパーさんのお力になれるよう日々奔走中。冬でも海が大好き。
Twitterアカウントはこちら