株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリ関連業界人を訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。第17回目となる今回は、方向と距離だけが表示されるナビアプリ「Waaaaay!(うぇーい!)」を開発したアプリディベロッパーチーム、「チーム方痴民(ほうちみん)」にお話を伺いました。
Waaaaay!は地図が表示されないユニークなナビアプリですが、ダウンロード数は約110万と人気は本物。このアプリのアイデアは、チームメンバー共通の「ある悩み」から生まれました。
今回お話を伺った人

− 私は以前からWaaaaay!を使っていてファンだったんです!まずは方痴民さんがどのようなチームなのか聞かせてください。

綾木良太さん(以下、綾木):それは嬉しい!チーム方痴民は「綾木(エンジニア)」「はむへい(エンジニア)」「おばら(デザイナー)」が集まってできたアプリディベロッパーチームです。一応、合同会社化はしているんですが、活動目的は自分たちが作りたいものを気ままに作ること。なので収益化は狙っていません。
− チームはどのような経緯で生まれたんですか?
綾木:僕が独立してフリーランスになった後に、とあるハッカソンでおばらと出会いまして。両方とも方向音痴で、あるある話に花が咲いたんですね。それでチームを組むことになり、「方向音痴の民」という意味で「チーム方痴民」が生まれたんです。

− へぇぇ!変わった名前だと思っていたんですが、そんな由来があったんですね! Waaaaay!はチーム結成後すぐに開発されたんですか?
綾木:最初に生まれたアプリはWaaaaay!ではなく、二度寝専用アプリの「ニドネル」でした。開発理由はおばらが絶望的に朝に弱かったからです(笑)。ニドネルは結局鳴かず飛ばずで、ダウンロード数は100くらい。Waaaaay!は3番目のプロダクトで、Chrome拡張機能「米一揆」を作った後に生まれました。
方向音痴の悩みが、ヒットアプリに生まれ変わった

綾木:Waaaaay!開発のきっかけになったのは、某広告代理店が開催していたハッカソンです。その時のお題が「複数のAPIを組み合わせて新しいサービスを作ること」。そのお題に対して、僕らは方向音痴なので道に迷わないアプリを作ろうと思ったんです。結局、GoogleのAPIしか使わないのでお蔵入りになったんですが、開発を進めて2015年の1月にリリースすることになりました。
− チーム結成時だけでなく、ここでもハッカソンがきっかけになったんですね!アイデアの骨組みはどのようなものだったんですか?
綾木:僕とおばらは二人とも地図が読めないんですよ。なので地図を表示しないナビを作れないか?と思ったんです。どうすれば最低限の情報でナビできるかを考えたら「距離」と「方角」が分かれば目的地に辿り着けると考えたんですね。
− たしかに!「距離」と「方角」が分かれば、いつかはたどり着けますもんね。地図があると逆に迷っちゃう時もありますし、一番シンプルかも。

綾木:そうなんです。まさしく僕は地図があっても迷う人で(笑)。待ち合わせには迷う危険性があるので、30分前には最寄り駅に到着するようにしたりしていました。駅から出て地図を見ながら「こっちかな?」と思って歩き出すと、反対方向に行ってることってないですか? でも、「距離」と「方角」が分かればとりあえず歩き出せるじゃないですか。
− なるほど、最小限のアナウンスはご自身の経験から生まれたアイデアだったんですね!アプリはリリース後、どれくらいダウンロードされているんですか?
綾木:結果を言うと、110万ダウンロードされるアプリになりました。
AppStoreのフィーチャーは計10回!その秘訣は、あえて期待値を下げること
− へぇぇ!110万はすごい!!プロモーションは何かされたのでしょうか??

綾木:それがプロモーションは全然していなくて、チームのFacebookページで告知した程度です。幸運にもメディアやSNSで取り上げていただくことが多くてですね。たとえば、Webマガジンの「ねとらぼ」さんは何度も取り上げていただいています。
一番爆発力があったのはテレビ出演で、ズームイン!!サタデーにメンバー全員で出演させてもらったんです。放送の瞬間に数万ダウンロードされて、テレビが呼び水になってTwitterで5万リツイートのバズも起きました。そうそう、AppStoreで計10回フィーチャーされたことも大きかったと思います。
− 10回も!?
綾木:そうなんです。おでかけ特集や、新生活特集、ゴールデンウィークの特集など、何度も取り上げていただきました。
− それだけ多くフィーチャーされた秘訣を聞かせてください!
綾木:こちらからアクションを起こしたことはないんです。強いて言えば評価が高いことかもしれません。Waaaaay!の評価って平均4.75くらいをキープしているんです。これは推測ですが、ユーザーさんに高い評価を頂いていることで、フィーチャーされやすくなるのかもしれません。
− これだけ高い評価をキープするコツはあるんですか?

綾木:最初から期待値を下げていることでしょうか。僕らはユルさを前面に押し出していて、ホームページにも「趣味の範疇でやりたい」とか「ダウンロード数100くらいがちょうどいいんだ」と書いちゃってます(笑)。だから、ドジ系というか、愛され系アプリだと思われているのかもしれません。
あとは、汎用性が高いアプリほど色んな人が入りすぎてしまうので、入り口で「方向音痴の人のためのアプリですよ」とフィルタリングをかけています。Google Mapsほど完璧なサービスではないけれど、自分たちと同じ方向音痴のユーザーが抱える問題はきちんと解決しますよ、というスタンスですね。
− なるほど、ハードルを下げてがっかりさせないことが高い評価に結びついているんですね。そういえば、表向きはユルい雰囲気ですけど、制作はどのように行っているんですか?チームの様子について教えて下さい。
マネタイズを考えない、「ゆるふわ」なチーム運営術
綾木:実は僕ら、リアルで集まったことは3回くらいなんです。それだけ、メンバーのつながりは薄い(笑)。それぞれフリーランスとして仕事をしていますし、合同会社化はしていますが、何か契約しているわけでもありません。基本はメッセンジャー上で「〜みたいなアプリを作りたい」と連絡しあって、作りたいものを作る「ゆるふわ」なチームです。
途中参加したメンバーの「はむへい」なんか住所不定で、どこに住んでいるか分からないんですよ。
− ええっ!?それは大丈夫なんですか?

綾木:1年前に四国のあたりに住んでいたのは確認できているんですが、連絡が返ってこないんですよね……(笑)。出会った時からフラフラしていたので、きっとどこかで生きていると思うんですが。まぁ、それくらいユル〜いチームだっていうことです。
− クリエイターのサークルに近いノリなんですね。ところで、マネタイズはどのようにしてますか?
綾木:マネタイズは最初から考えていないですね。ただ、アプリを運営していると、年数万円ほど、ディベロッパーの登録料やサーバー代がかかるんです。費用はポケットマネーから払っても良かったんですが、チーム内では「できたらアプリで稼げたらいいよね」と話していました。でもデザインはシンプルにしたかったので広告は入れたくなかったんです。
− 具体的にはどう解決していったんでしょう?

綾木:Waaaaay!の場合、方角を示すコンパスをサンマに変えることができる「サンマ課金」を実装しました。見た目が変わるだけで特にどうということもないんですが、価格は当時の課金の最低レートである100円で、アプリリリース当初から実装していました(笑)。
− なぜサンマなんですか?(わたしはサンマ大好きです)
綾木:機能のアンロック課金も思いつかなかったので、ネタに振ってしまおうと思ったんです。メンバーとブレストしていたら、手元にサンマのキーホルダーがあって……。
− それで(笑)

綾木:そうです(笑)おかげさまで3000人の方に課金していただいて、Waaaaay!は黒字サービスになっています。ところで今、「金のサンマ」課金というのを構想していまして。
− 金のサンマ!(笑)(笑)
綾木:調べてみたら、AppStoreの課金額って約10万円に設定できるんです。だからシャレで、10万円課金したらコンパスが金のサンマになる課金ポイントを実装してみようかと(笑)。
非現実的かと思われるかもしれないんですけど、アプリ黎明期の頃には、10万円課金すると、宝石が表示されるアプリがあったんです。仲間内で見せて自慢するための、一種のステータスみたいなものだったらしいんですけど、同じように金のサンマも酔狂な人が課金してくれないかなと考えています。

− 方痴民さんのファンならそのシャレも理解してくれそうですね(笑)今後、マネタイズ以外に、アップデートの予定はありますか?
綾木:利便性の向上のために検索時間を短くしたいですね。検索する時って、住所をコピーしてペーストして……わりと面倒じゃないですか。理想を言うと、僕はユーザーに入力すらさせたくないんです。自分たちと同じ、方向音痴のユーザーには心理的なストレスを感じることなく、なるべく何も考えずに目的地にたどり着いてほしい。
Webサービスから位置情報を抽出して案内を開始できるようようにするなど細かいアップデートはしていますが、これからも方法は模索していきたいですね。
Waaaaay!は海外版がリリース済み、ゆるふわチームの今後はどうなる?
− 最後に、今後リリースする予定のアプリや、構想を聞かせてください。
綾木:これはもうリリースしているアプリなのですが、今後は海外旅行向けのWaaaaay!をアップデートしていきたいですね。
− えぇっ!?もうリリースされているのですか?

綾木:「距離」と「方角」を使ったナビゲーションというWaaaaay!の基本は変わりませんが、アプリをインストールしておけば、鉄道の乗り換え案内や、観光スポットの情報が現地でオフライン利用できるんです。海外版Waaaaay!はロンドンやニューヨークなど16都市をリリースしていて、シリーズの本数とスポット数の増加が今後の目標ですね。
新規アプリでいうと、まだアイデアはないんですがもっとネタに振ったアプリをリリースしたいです。たとえば、すごーくアバウトな情報しか得られない、「もしかしたら待ち合わせできるかも?アプリ」とか(笑)
− 方痴民さんの色が出ていますね(笑) ニッチな悩みに真摯に答えた結果ユーザーの評価が上がり、メディアやストアで取り上げられたことや、ユニークなアイデアの生み出し方などが、すごく面白いお話でした。今後もひとりのユーザーとして応援させてください!本日はありがとうございました。
◎チーム方痴民のホームページ⇒http://houchimin.com/
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