株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリデベロッパーを訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。
第3回目となる今回は、「マンガZERO」「マンガTiara」「マンガモンスター」といった3つのマンガアプリをリリースしているデベロッパー「Nagisa」でマンガ事業を率いるお二人にお話を伺いました!
お二人いわく、成功のコツは「ほぼ無意識に、毎日アプリでマンガを読む習慣」を3つの施策を組合せて作り出すこと。その真相とは?
今回お話を伺った人

2012年、株式会社スパイア(現ユナイテッド株式会社)に入社。アドテクノロジーを主体としたトレーディングデスク事業立ち上げに従事。2014年、株式会社Nagisaにジョイン。マンガ事業の立ち上げを行い、現在は事業部の責任者を務める。

2014年、株式会社NagisaにUI/UXデザイナーとして入社。入社後70を超えるweb,アプリのデザイン制作を経て、現在、マンガZEROのプロダクトマネージャーと社内のデザイン組織リーダーを務める。
書店に代わり、立ち読みの役割を果たすマンガアプリ
— さっそくですが、どういったマンガアプリを貴社では出されているのですか?
樋田:3つのマンガアプリを出しています。
●マンガZERO
●マンガTiara
●マンガモンスター
2015年以前に「マンガZERO」の前身となる「マンガ無双」というマンガアプリを出していました。ただ2015年に、App Storeでのアカウント停止をNagisaが受けて以降、NagisaアカウントからはiPhone向けのアプリを出せなくなったんです。Android向けはそのまま自社でリリースし、iPhone向けは弊社がアプリの企画、制作に専念をし、協力会社と組む形でリリースしたのがこの3つのマンガアプリです。
川畑:言うなれば「マンガ三兄弟」です。
— だんご三兄弟みたいで可愛いですね(笑)。
樋田:「マンガ無双」を社内では“1番上の兄貴”と言っていたんです。続いて妹として、女性向けマンガアプリの「マンガ姫」。そして、「マンガの時間」という「マンガモンスター」の前身を弟としてリリースしていました。だからマンガアプリ三兄弟だと(笑)。
目指したのは、それぞれ個性のある3つのマンガアプリが、マンガ業界、マンガビジネスを変えていくということですね。
三兄弟のうち、今もっとも注力しているのがマンガZEROです。
— マンガZEROは、他社が扱ってない作品が多い印象があります。特に古い作品など。理由は、Amazonや書店で売るよりマンガZEROで出したほうがユーザーの目につくからなのでしょうか?
樋田:そういう側面もあると思います。Amazonや書店は取り扱う作品が多く、良い作品でも埋もれてしまいがちです。マンガZEROの最大の特徴は、日替わりで多くの作品に出会えるようにしたこと。書店で埋もれていた作品でもユーザーの目に触れる機会を増やすことで、書店では売れなかった作品が、結果的に数百万円くらい売上があがった事例もあるんです。
— 書店の棚では埋もれて見つけられない作品がマンガZEROでは見つけやすくて読めるということですね。
樋田:そうです。マンガアプリは、雑誌や単行本の立ち読みの役割を担っていると思います。「この作品初めて読んだ」みたいな体験を与えるのがマンガアプリの役割なのです。
— 確かにそれまで知らなかった、任侠アクションマンガの『69デナシ』をマンガZEROで全巻、私も読んじゃいました!
樋田:ありがとうございます(笑)。世の中にはまだまだ知られていない面白い作品が山ほどあります。知られていない作品との出会いがある限り、マンガアプリ市場はまだまだ伸びるはずです。
作品のリノベーションで新規顧客の開拓を行う
— 伸びる市場とはいえ、競合のマンガアプリがたくさんある中で勝っていくのは大変だと思うのですが、勝機はどこにあるのでしょうか?
樋田:まずはコンテンツの力。これに加えて、アプリのユーザビリティ(UI)やユーザー体験(UX)も大切ですね。マンガZEROのプロダクトマネージャーを川畑がしているので、そのあたりを川畑から話してもらいます。
川畑:以前リリースしていたアプリ・マンガ無双からマンガZEROに変更するとき、大きく変わったのは男女比率です。性別関係なく誰でも使うアプリにすることを意識したんです。
男女ともに、アプリをホーム画面に置いてもいいと思ってもらえるようなアイコンとアプリ名にすることからはじめました。ユーザビリティの一種を改善した感じですね。「マンガ無双」って字面もそうですけど、アイコンもかなり男性寄りでしたから。
樋田:しかも、無双ってすごいB級感のある名前でした(笑)。
川畑:そうそう(笑)。アイコンや名前だけではなくマンガZEROも、2016年夏の大幅アップデート前は、マンガコンテンツの絵柄に引っ張られることもあったんです。
— どのようなアップデートを行ったのでしょうか?
川畑:思いっきりスタイリッシュにしました。黒ベースから白ベースにして、マンガコンテンツの絵柄が埋もれないように。そうして少し女性的な要素を取り入れたのです。
— なるほど!先ほどおっしゃった「絵柄に引っ張られる」とはどういうことですか?
樋田:ユーザーが最初にサムネイルを見た時に「うわっ古い!」と思っていたのが以前のマンガZEROでした。
それと比べるとわかると思いますが、リニューアル後はちょっと違います。見せ方を川畑が全部作り直しています。昔の古い絵柄の作品バナーを今っぽくリデザインしているんです。物件のリノベーションにちょっと似てますね。
— 作品のバナーを変えると印象も変わりそうですね
樋田:バナーを変えることでのインパクトは相当でかいです。“古臭い”ものから“今っぽく”するだけで、読んでもらう確率はぐんっと上がります。絵柄が古い、というだけで中身はとてもおもしろいのに読まれていない、という機会損失を防げていると思います。
— へぇー!単行本と同じ表紙をそのまま使う電子書籍サービスが多い印象だったのですが、キャッチーな導線にすることでユーザーさんの目に止まりやすくなるのは納得です。
【グロースハック・1】1日8話分を読む習慣づけにつながるチケット配布
— 読んでもらう確率という数字が出てきたので、どういったKPI(重要指標)で効果測定をしているのかを教えていただけますか?
樋田:マンガZEROでは、以下のKPIを細かく見ています。
●アプリ内でどれだけ回遊しているか
●どれだけのユーザーが、どれだけのチケットを使っているか
— このKPI改善のためにどんな施策を行ったのでしょう?
樋田:技術の力でKPIを改善するグロースハックで意図したのは、アプリ利用の習慣化です。
— 習慣化するのって大変ですよね?
樋田:それはもう大変ですよ。「筋トレをしよう」「ダイエットをしよう」といった事がほぼ長続きしないのと同じで(笑)。アプリをダウンロードしてもらった後、習慣化させることは大変な作業です。
試行錯誤の結果、習慣化する=継続率を上げる方法として、3つの施策を組合せました。何か1つの施策だけではなく3つを同時に行う組合せが大切です。
習慣化=継続率を上げるのは3つの施策の組合せ!
1.合計1日8枚の無料チケットを配布する
2.チュートリアルを体験型にする
3.最初に読んでもらう作品を、継続率が高い作品にする
— 1日8枚のチケットといえば、毎日8時と20時に配布されるマンガZEROの無料チケットが「4枚」で1日合計8枚になるってちょうどいい数字ですね。ちょうど良いところで終わるので、マンガの続きが気になってチケットを使ってついつい毎日読んでしまいます(笑)。
樋田:それ、習慣化するための1つ目の施策の効果だと思います(笑)。たいていのマンガは6~8話で単行本1巻分ですよね。そして、読者を引きつける要素が仕込まれているのが1巻分の最後。すなわち8話ごとになっているケースが多いです。なのでこのチケット制などの制限は他社さんでも多く取り入れられている手法ですが、理にかなっているんだと思います。
— 翌日だけではなく、アプリで朝晩マンガを読む習慣も付いた気がします。アクティブ率が高まってそうですね!
樋田:そうです。チケット制の導入だけの効果ではないですが、顧客維持を示すリテンションの数値も最大で1.5倍くらいに上がりました。すると、DAU(1日に利用したユーザー数)も急速に伸び始めます。習慣化が成功すると様々な数字が好転するんです。
【グロースハック・2】アプリの習慣化を補うチュートリアルの改善
— リテンションの数字が1.5倍というのは凄いですね!
樋田:そうです。ただ、習慣化の1つ目の施策「合計1日8枚の無料チケットを配布」というのは、「チケットによる制限」というストレスをユーザーが受けることになります。そのバランスの取り方がすごく難しい。この制限により悪化した数値もありますが、そこは色々と工夫をしました。
— どうなさったんですか?
樋田:習慣化のためのグロースハック2つ目の「チュートリアルを体験型にする」という施策でユーザーにアプリのシステムを理解してもらいつつ、ストレスを抑えることに成功したと思います。インストール直後に見るチュートリアルを川畑がものすごくこだわってくれたんです。
川畑:言葉遣いと表示箇所のこだわりです。例えばインストール直後にチケット配布時間をただ表示するだけではなく、作品を読もうしているタイミングで「毎日8時と20時に4枚配布」とシンプルな言葉でルールを伝える。そうやってアプリの使い方を「マンガを読む」体験と共にユーザーに理解してもらうことが重要だと考えています。
【グロースハック・3】継続率の高い作品を用いて習慣化の精度をさらに強化
— インストール直後に見るチュートリアルから取り組むのは、インストール直後から習慣化を仕込むという意味ですか?
樋田:そうです。チュートリアルをさらに工夫したんです。
習慣化のためのグロースハック2つ目の「最初に読んでもらう作品を、継続率が高い作品にする」という施策をチュートリアルに組み込みました。
— チュートリアルと継続率の高い作品。一体、どういうことでしょうか?
樋田:ある作品を読んだら継続率が高いっていうデータがあったんです。そこで初回起動時に、その継続率が高い作品を最初に読んでもらうように、チュートリアルに組み込みました。
— 継続率が高い作品をアプリ起動直後に読み始めると、確かに習慣になりそうですね!
川畑:そうなんです。「翌朝起動しよう」というモチベーションは、作品と紐付いていないと成立しません。「無料チケットが1日8枚配られるから明日見よう」だけじゃ不十分なんです。「この作品を明日8話見れる」という動機づけを行うことが大切。
無料チケットと作品を紐付けた習慣化の効果を上げるためにも、高い継続率の実績がある作品に初回チュートリアルでユーザーが出会うようにしました。
— 私も読んだ『69デナシ』は継続率が高そうですね!
樋田:よくわかりましたね(笑)。あとは『BTOOOM!』も継続率が高い。つまり継続率が高い作品は「週刊」で連載されていた作品が多いんです。
— へー!!月刊誌連載作品じゃダメなんですか?
樋田:月刊誌で連載しているマンガは、ユーザーが連載を待ちきれなくてストレスが溜まってしまうことから1話完結で終わっていることが多い印象です。1話で完結していると「次を読みたい」というモチベーションが高まりません。つまり、月刊誌で連載されていた作品だと、初回にユーザーにオススメする作品としては離脱率が高いと考えています。
— それ、とても説得力があります!
樋田:一方、週刊漫画誌で連載されていた作品は、各話の終わりをすごく引きのあるものにしてあります。週刊で連載しているマンガは、1週間ならユーザーが我慢できるからというのが理由ではないかと考えています。
そうした引きが各話の終わりにあるので、週刊で連載してるマンガはアプリでも次のエピソードへの継続率が高くなるんです。
— 『69デナシ』を読んだあと『BTOOOM!』も読んでいる私は見事にそこにハマっているんですね(笑)。もっとお話を聞かせてください!
(後編へ続く)

渋谷で働くIT女子。メディアコンサルタントとしてデベロッパーさんのお力になれるよう日々奔走中。肌寒くなってもやっぱり海が好き。
Twitterアカウントはこちら