株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリデベロッパーを訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。
今回、登場するのはマンガアプリなどをリリースしているデベロッパー「Nagisa」の樋田さんと川畑さん。前編では、マンガアプリのグロースハックについてお伺いしました。
今回の後編では、マンガアプリのASO(アプリストア検索最適化)や今後のマンガアプリの展開について聞いてきました!
「デザインがわかる人をプロダクトマネージャーに」と強調する樋田(とよだ)さん。その理由が明かされます。
前編はこちらをご覧ください!
今回お話を伺った人

2012年、株式会社スパイア(現ユナイテッド株式会社)に入社。アドテクノロジーを主体としたトレーディングデスク事業立ち上げに従事。2014年、株式会社Nagisaにジョイン。マンガ事業の立ち上げを行い、現在は事業部の責任者を務める。

2014年、株式会社NagisaにUI/UXデザイナーとして入社。入社後70を超えるweb,アプリのデザイン制作を経て、現在、マンガZEROのプロダクトマネージャーと社内のデザイン組織リーダーを務める。
本当に有効なASOを確認するため3日に1度の頻度でアプリをアップデート
— グロースハックの一環としてのASOは、どういう点を意識されているんですか?
樋田:ASOは社内のメンバー中心に検証したロジックやノウハウがあるんですけど、そこはちょっと詳しくは言えないので…。
— やっぱり(汗)。では、可能な範囲で少しだけ教えてください!
樋田:App StoreのApp Analytics(Apple提供の公式アプリ解析機能)から以下4つの数値をデイリーで取って来ます。それで、CTR(クリック率)とCVR(コンバージョン率)を確認します。あとはランキング遷移をチェックしながら、キーワードのチューニングをしているって感じですね。
「アプリ詳細ページに行った数」÷「インプレッション数(アプリのアイコンがストアで表示された数」=CTR
「表示後のダウンロード」÷「アプリ詳細ページに行った数」=CVR
— デイリーでチェックなさっているんですね!
樋田:デイリーのチェックを踏まえて、アプリをアップデートするタイミングでApp Storeにおけるディスクリプションやキーワード、タイトルを必ずチューニングしていきます。
例えば、他にもやることめちゃくちゃあるんですが…CVRを見ながら1枚目と2枚目のスクリーンショットを変えたりといった細かなチューニングを川畑がやっています。
— チューニングの細かさがわかる例ですね。1枚目がメインなのに、2枚目まで変えるんですか!?
樋田:KW単位で検索した際に、ストアのリスト上に出てくるのがスクショの2枚目までだからですね。ここがかなり重要。
そういったどんな施策が有効かを検証するために、マンガTiaraやマンガモンスターで、2016年8月から9月にかけて3日に1回アップデートして検証を繰り返していました。
— 3日に1回ですか!すごい頻度ですね?
樋田:高い頻度でアップデートを繰り返した過程で、ASOの検証も反復していました。「ASOではこういう噂があるけど、その噂は本当なのかな」っていうスタンスです。
— トコトン検証するっていうスタンスが凄いです!
樋田:3日に1度の頻度で行ったASOにまつわる噂の検証で、ただの噂に過ぎなかったこともわかったし、本当のこともわかりました。
— ASOは、噂に振り回されずに検証することが大切なんですね。
マンガ市場で電子と紙が逆転する未来に向けて独自コンテンツを強化
— 将来的には電子と紙の市場規模がマンガでは逆転するといわれています。そこに向けての施策はありますか?
樋田:究極的には、自社の独自コンテンツを作らないとブランドは成立しないと思います。ただ、自社のコンテンツを作ろうとするとやっぱりコストが物凄くかかります。また、出版社さんからは作品を提供いただいている立場でもあるので、独自コンテンツと出版社から提供いただいたコンテンツのバランスをとるのも大切です。
色んなハードルはあって難しいことも出てくるとは思うんですが、出版社さんとも一緒に業界を盛り上げていけるような取り組みや仕組みは創っていきたいなあと。
— すでにこれだけ多くの作品があって、ユーザーも集まっている。そこに、独自コンテンツも加わると、圧倒的な差別化になりますね!
樋田:もしその独自コンテンツがクオリティの高いものであればあるほど「お、なんだこれ?」みたいなものが出てくるはずです。あとは、そういった「作り込む作品やコンテンツ」以外にも、将来の有望な作家さんが活躍のきっかけをつかめるような、投稿型のプラットフォームも準備しています。
— 投稿型?絵師の皆さんがマンガを投稿できるようにするのですか?
樋田:はい。投稿型のプラットフォームでは、一般のユーザーさんにマンガを描いてもらいます。一般ユーザーの皆さんにお金を稼いでもらうプラットフォームなんです。マンガにおける、LINEクリエイターズスタンプみたいなものですね。
— それ、ステキですね!
樋田:投稿プラットフォーム経由での出口さえあれば、マンガを描く一般ユーザーのモチベーションや投稿するクオリティは担保できると思っているんです。
— 出口とは、なんでしょう?
樋田:クリエーター目線での出口という意味です。多くの読者に触れる機会があって、自分が描いたマンガがビジネス的に成立する、その二つがちゃんとあるのが出口ですね。
— 確かに、プラットフォーム経由で出版されたり、映画化されたりしたら嬉しいですよね!
樋田:CtoCになるため、チャレンジングな要素が多いですが、若いプロダクトマネージャーを据えてその感性を活かしつつ、川畑と自分がサポートしながらプロジェクトを進めています。
仮説検証を高速でやるため、デザインがわかる人をプロダクトマネージャーにすべき!
— デザインがわかる川畑さんがプロダクトマネージャーをやることでの利点は他にもありますか?
樋田:次の4つの利点があります。
1.思考をビジュアル化するのがデザイナーは速い
2.デザインカンプをエンジニアに見せて即、実装作業に入れる
3.「1」と「2」で、仮説検証もすぐ終えられる
4.「1」〜「3」の結果、意思決定もハイスピードで行える
こうして考えると、プロダクトマネージャーはデザイナーがやるのが理にかなっていると思いますね。
— 今の話を聞いて思ったんですけど、御社はデザイナーさんの地位が高いことが、うまく効いているのでしょうか?
川畑:地位が高いというか、プロダクトマネージャーとして他職種の提案や意見を引き出す重要な位置にいやすいという点があります。Nagisaは職種間のコミュニケーションがとにかく闊達なので、そこでデザイナーをしている僕はチャンスに恵まれているなと思っています。
アプリのコードはユーザーからは見えませんよね。でも、デザイナーはユーザーから見えるデザインを作っているから重要な位置といえるのです。
樋田:確かに!しかも自分の手ですぐに作れる。ずるいよね〜(笑)。
川畑:ずるいですか(笑)。でも、樋田のアイデアを形にするのもデザイナーの役目。UIや広告だけではなく開発メンバー全員の頭の中を図に起こして議論を活発化させるのも、広い意味でのデザイナーの仕事と捉えてやっています。
樋田:最初は、ざっくりした具現化でいいんです。アイデアが形にされたざっくりデザインを、こねくり回して良い物を作っていくみたいな感じ。
割と完成形は求めてないんですよ、僕も。アイデアが形になった瞬間が面白いですね。その後、この粘土をこういう風に変えればこうなるよねっていう議論を一緒にしていくわけです。
— 粗くてもいいから、形にしたあとの議論が大事なんですね?
川畑:議論を生むための、デザインを作るっていう工程が大切です。すると、作り手側も自分のエゴだけを貫き通すものは作らなくなるんです。レビューをもらって良い物を作る姿勢ですよね。
ユーザビリティとマネタイズの戦争が良いプロダクトを作る秘訣
樋田:あとは僕らの最大の強みはマネタイズでいけば、広告ですね。たくさんあるマンガアプリの中で1番こだわっているんじゃないかと自負できるぐらい、アプリ内に配信する広告は毎日売上や周辺の数値を見ながらアプデなどでチューニングを繰り返しています。
— 広告の中身までよく見てるんですか?
樋田:見てますし、出し方・配置の仕方も考えています。基本、ユーザーがアプリから離脱するタイミングを読んで、配置してますね。
— 確かに、御社のアプリはすごく自然に広告が出てくるから広告の内容も頭に入って来るんです。CVR(コンバージョン率)が高いから、Zucksとしてもすごく良いなと思っています。
樋田:売上が急激に上がったのは、2016年8月29日の大幅なアップデートでリデザインをしたとき。例えば、マンガの最終ページでテレビCMみたいに出した動画広告の日次の売上が5~6倍に跳ね上がりました。デザインもこだわって。
— ご、5~6倍ですか!
樋田:はい。本当に急激に上がりましたね。もちろん普段から、数字を上げるために広告の配置もピクセル単位でこだわっているのも理由でしょうけど。
川畑:ピクセル単位でのユーザビリティとマネタイズの戦争です(笑)。僕はマンガのような強い引きのコンテンツがあるのであれば、ユーザビリティを追求してゆくと、結局マネタイズできるなって思うんです。
樋田:僕はユーザビリティの奴隷になりすぎてはダメだと思っています(笑)。ユーザーにとってある程度納得感があってついつい押しちゃうような広告の出し方や仕掛けはあると思うんです。
ユーザビリティを追求すると川畑の理論でいけば、ユーザーが不快に思わない、便利だとか、気持ちいいっていうところに広告を入れていく。
僕の場合は強制的に出すのもひとつの手だなと思っています。ここのぶつかり合いが、本当に広告の実装に関しては多いですね。喧嘩じみた言い争いをしていくみたいな。
— ユーザビリティとマネタイズのせめぎ合い、面白い!
川畑:マネタイズの効果が上がって、ユーザーにとって面白いコンテンツが配信できるのであれば、読書アプリの広義の意味で“ユーザビリティ” の向上でもあると僕は思っています。この引っ張り合いで第3の案が生まれることも多いので有意義だと思います。
樋田:僕はアウェイですけどね、毎回。だって、デザイナーである川畑とエンジニアが結託している感じがするので(笑)。
だけど、最終ゴールはユーザーや出版社のためっていうゴールは同じです。意見の出し合いっていうか、すり合わせが面白いっちゃ面白いですね。僕はビジネスサイドの1人として絶対に意見は言わなきゃなとは思ってますし。
— そんな真剣勝負が広告での売上を上げていくんですね!
マンガアプリでの広告と課金の理想は半分ずつ!
— マンガアプリでの広告についてもっと聞きたいです。課金+広告というビジネスモデルでの売上比率はどんな感じですか?
樋田:以前は、広告が8~9割、課金が1~2割。それが2016年8月のリニューアル後は課金が3~4割ぐらいに上がってきてます。
— AppleやGooglePlayに30%抜かれてさらに出版社へマージンを戻すより、広告で売り上げて出版社へマージンを戻したほうが、利益率が高そうですけど?
樋田:利益率でいうとそうですね。ただ、広告のCPM(Cost Per Mill)って市場的な動きだったり、担当者さんの運用だったり、広告枠の配置の仕方で大きく変動すると気付きました。つまり、CPMをビジネスの主軸に置く(置きすぎる)のは非常にリスキーだなあと。
一方課金なら、提供いただけるコンテンツの種類だったり、自分たちが行うキャンペーンだったり、グロースハックで行うUI的改善など自分たちがコントロール可能です。課金の方が事業をハンドリングしやすくなると思うんですよね。リスクのない事業の展開を行うなら、課金でお金を生み出さなきゃと感じてます。
— CPMについての気付きを踏まえて、広告と課金の理想的な比率はありますか?
樋田:広告と課金、半々くらいを目指したいです。
— NagisaにはZucksが付いてるんで大丈夫ですよ!
樋田:ありがたいです。広告の比率が減るからといって、広告の絶対数を減らしているわけではないですからね。トップラインが伸びているから広告はむしろ増えています。広告の占める比率が変わっているだけなんです。
— マンガZEROの売上が右肩上がりで伸びてるってことですね。ステキです!
プロデューサーとデザイナーにとってのハッピーとは?
— 樋田さんに最後に伺いたいのが、プロデューサーにとってのハッピーとは何ですか、ということです。
樋田:ありきたりな言葉ですけど、2つあります。
1つ目が、自分が考えたビジネススキームや仕組みでしっかりと売上をあげて、ステークホルダーの皆さんにお金を還元できた時。出版社さん、取次さん、さらには作家さんといった皆さんへの還元です。
2つ目は、自分のサービスが市民権を得始めたことを感じた時ですね。市民権を得るっていうのは、「マンガZERO読んでんだけどさ」みたいなセリフが自分の周りの友達から自然と出ること。その言葉を聞ければ「あーやってて良かった」なみたいな感じはありますね。
— 確かにゾクッとしますね!では、川畑さん、デザイナーにとってのハッピーとは何かを教えてください!
川畑:世の中の流れを作ることを表現したのが、樋田がいう「市民権を得る」という表現だと思うんです。
デザイナーにとっては、ビジュアルと共に練った設計意図がユーザーや開発メンバーにうまく伝わり、世の中のムーブメントを作れた時がハッピーですね。
— 流れ作り…奥が深いですね!ASOはデイリーでの数字のチェックが大切。今後は独自コンテンツの強化が重要になってくるなどマンガアプリのいろんなことを伺えてよかったです。本日は、ありがとうございました!

渋谷で働くIT女子。メディアコンサルタントとしてデベロッパーさんのお力になれるよう日々奔走中。肌寒くなってもやっぱり海が好き。
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