
株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、アプリ関連業界人を訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。第13回目となる今回は、AppStore「Best of 2016」の準大賞に選ばれ、全世界で130万DLを記録したカジュアルゲームアプリ「TIME LOCKER」の開発者、大塚(Sotaro Otsuka)さんにお話を伺いました。
今回お話を伺った人

テスト版完成時、「これはヒットする!」と確信した
– 今日はよろしくお願いします!大塚さんはTIME LOCKERが初めて開発されたアプリなんですよね?そのアプリが世界でプレイされるヒット作になったわけですが、開発はどのように始まったのでしょうか?
大塚そうたろう(以下、大塚):ゲームの開発自体はサラリーマン時代に3年間行っていたんですが、その間に作りたいアプリの構想がどんどん溜まっていったんです。
それで、2015年の独立後に作り始めたのがTIME LOCKERでした。
最初にモック(ゲームの大まかな動きがわかるテスト版)を作るんですけど、開発から2ヶ月目くらいですね、モックが完成した時に「これはいける」と思ったんです。それこそ「ヒットしないとおかしい」と思えるものができて、その後8ヶ月ほどかけて細部の挙動やビジュアルを詰めていきました。

◎TIME LOCKERトレイラー動画
⇒ https://vimeo.com/174165613
– へぇ〜、開発当初からヒットの予感がしたんですね。なぜそう思えたのでしょうか?
大塚:自分の思い描いていたゲームの構想にばっちり当てはまるものができたんです。サラリーマン時代に「もっとああしたい、こうしたい」というモヤモヤが蓄積した後に開発したものだから、「こうあるべき」という「スマホ用ゲーム像」が固まっていたんだと思います
その像に合致したものが作れたから、これはいけると確信しました。だから開発中は、モチベーションが落ちることはなかったですし、開発の軸がブレることはなかったんですよ。自分がいいと思えないものを作り始めると、途中で頓挫してしまうと思うので、やっぱりモックって大事です。
クールで無機質な“世界観”が日本ユーザーにウケた
– TIME LOCKERを開発したのが大塚さんだと聞いた時は、ビジュアルも世界観も日本らしくないアプリなのですごく驚いたんです。海外のカジュアルゲームのような、クールで無機質なゲームのテイストはどこから生まれたんでしょうか?

大塚:実は、TIME LOCKERは最初から海外向けに作っていたんです。もともとクロッシーロードとか、海外のカジュアルゲームが好きで。だから言葉をなるべく使わない直感的に操作できるゲームデザインにしました。
– デザインもシンプルで北欧っぽいですよね、IKEAみたいな。
大塚:あれは、テクスチャを描きたくなかっただけで、結果フラットになったんです(笑)
でも、様々な国でウケるよう全体的にシンプルにしようと思ってました。それでリリースしたら海外を中心にDL数が増えていったんですけど、当初の予定と違って日本で予想外にウケたんですよ。嬉しいけれど、まさかと思う展開でした。
– そんな裏話があったんですね。それぞれの国でウケているポイントに変化はありますか?

大塚:ゲームの中にパンダの有料キャラクターがあるんです。日本ではワニの方が人気なのですが、中国ではよく売れてますね。
僕は、プレイヤーにはコンシューマーゲームとスマホゲームをがっつり両方やる「コアなゲーマー」と、暇つぶしにカジュアルゲームを楽しむ「ライトユーザー」がいると思っています。海外ではその中間層が多い印象です。
日本はその二極化が激しいと思っていて、僕のゲームはどちらかというとコアなゲーマーが気に入ってくれました。だから、Twitterとかで評判をサーチしてると、細かい要望が書き込んであったりしますし、ゲームの世界観を大切にしたがる傾向があるようです。ゲームキャストとコラボキャラクターを出した時も「世界観が壊れるからやめて!」という声が挙がったり。

– 日本はゲームの世界観を大切にする人は多そうですね。
大塚:そうですね、TIME LOCKERの場合は、クールで無機的な世界観を壊してほしくないという要望なんだと思います。僕は世界観とか大して考えてないので、リザルト画面でキャラクターにセリフを付ける仕様にしたこともあるんですが、これも不評でした。こういった風潮は海外ではあまり感じていません。
– 日本は子どもの頃からゲームに親しんできた人も多いでしょうし、こだわりは強いのかもしれないですね。
ストアのフィーチャーは積極的に狙うべし
– 次はプロモーションの方法をお聞きしたいです。海外展開の際にプロモーションはどのように行ったんですか?
大塚:広告はUnity Adsを中心に使っています。ゲーム自体もUnityでできているので、担当者の方が声をかけてくれて、プロモーションのバックアップをしてくれました。
あとは世界中のAppStoreでフィーチャーされたことが、DL数増加の一番大きい要因です。
– リリース3日後に、アメリカのAppStoreで「おすすめのアプリ」としてフィーチャーされたんですよね?その要因ってなんだったんでしょうか?
大塚:ひとつは、海外メディアにプレスリリースを送ったこと、もうひとつはアプリのアイコンでしょうか。
ストアは大量アプリが並んでいるので、アイコンの配色やインパクトには気を使いました。ゲームの内容以前に、目立って、知ってもらわないと掲載されようがないので。
アイコンデザインには気を使いましたが、実は最初からフィーチャーを狙っていたわけではないんです。というのもフィーチャーの影響力をそんなに分かっていなくて。でも「取り上げられるとこんなに数字が伸びるのか!」と実感したので、次回作ではもうちょっと意識していこうと思ってます。

– アイコンのお話が出ましたが、ユーザーの流入経路やASOは意識していますか?
大塚:流入はAppStoreが中心で、ASOはあまり意識していないですね。というのも、日本だと「おすすめのインディゲーム」の欄に表示されていたり、「おすすめアップデート」の欄からDLしてくれることが多いので。
逆に反省しているのは、ゲーム自体の拡散力の弱さです。今回はたまたまアップルにフィーチャーされたからなんとかなりましたが、もしも担当の人が気に入ってくれなければ死んでいたわけで、ユーザー間で自然に拡散されていくような工夫が必要だと感じています。
– ストアに頼るのではなく、ユーザーが人に勧めたくなる仕組みが大切だということですね。
ファンが増えすぎてもマネタイズはできない?動画広告のジレンマ
– 次はマネタイズのお話に移りましょうか。TIME LOCKERは動画広告と有料アイテムの2本立てでマネタイズを行ってますよね。ぶっちゃけた話になってしまうんですけど、動画広告のCPMって1000円超えたりしちゃっているんですか?
大塚:調子いい時はそれくらいですが、普段はそこまでの金額にはならないです。
動画広告のサービスでは、「広告を見ただけで収益になるタイプ(低単価)」と「広告で表示されたアプリをダウンロードされて、はじめて収益になるタイプ(高単価)」の2つが混在していて、その中から自動的に振り分けられて流れてきます。
つまり、TIME LOCKERが合わずに、広告で表示されたゲームに目移りして去っていく人が収益を支えてくれるという不思議な現象が起こります。逆に、TIME LOCKERを気に入ってくれた人は他のアプリをDLしにくいので広告単価は下がりますが、課金アイテムを買ってくれる確率が高い。
そういう意味で、『無料』+『広告』+『課金』というのは、スマホゲームにおいて隙がない構成だと思います。誰が考えたんですかね、すごいです。

– 最後に大塚さんのこれからについて聞いていきたいと思います。次回作を楽しみにしている人も多いと思うのですが、開発の予定はありますか?
大塚:TIME LOCKERのアップデートもそろそろ落ち着いてきたので、次作に取り掛かり始めています。新作も1年くらいかけて開発していく予定です。
– 次回作も長い時間をかけて作るんですね!
大塚:やっぱり長く遊んでもらうためには、作り込む時間が必要だと思うんです。僕、日本のカジュアルゲームって、開発期間がすごく短いと思っています。1〜2ヶ月とか、勢いよく作ったからこそ面白いタイトルはあるんですけど、すぐに飽きられてしまうものも多い。
最終的にはお金のことを考えないで、作りたいものを作り続けていきたいんですが、商業クリエイターとしての寿命は3〜4年しかないと思ってますし、家族もいるので、世の中からそれなりに受け入れられている今は、しっかりと稼いでおきたいですね。
– 一プレイヤーとして、次回作も楽しみにしています!今日はありがとうございました!!

