株式会社Zucksにて広告営業ガールをしている“あやんせ”が、Webサービスやアプリ関連業界人を訪ねるコーナー「あやんせが行く!」。第19回目となる今回は、インターネット書店「漫画全巻ドットコム」や、無料マンガサービス「スキマ」を運営する株式会社TORICOにお話を伺いました。
スキマAppは100万DL以上、Webサービスも月間100万UUを突破している人気サービスですが、立ち上げ当初は思わぬ苦戦を強いられていたそうです。
今回お話を伺った人

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− TORICOさんの事業内容についてご存じない方もいらっしゃると思いますので、まずはどのような事業を展開しているのかお聞きかせください。

濱田潤さん(以下、濱田):平たく言えばインターネット書店業で、漫画や漫画関連グッズ、電子書籍をインターネットで販売しています。主軸となるサービスは2005年から運営している「漫画全巻ドットコム」で、これはコミックを第1巻から最新刊まで一気に購入できるECサイトです。
漫画全巻ドットコムでは出版社から許諾を得て電子漫画も配信していたので、「スキマ」はその流れで生まれました(アプリは2015年4月、Web版は2016年7月にリリース)。実はスキマって、コミックのプロモーションのために運営しているんですよ。

− スキマのサービス単体で収益化を狙っているわけではないんですか?
濱田:もちろん単体での収益化は狙っていますが、「漫画全巻ドットコム」を中心にした漫画ECサイトや弊社で運営しているリアルイベント「マンガ展」のプロモーションだと位置付けています。僕たちのビジネスは書店業なので、アプリやWebで作品に触れてもらい、ECでコミックを買ってもらうサイクルの中で収益が出たらいいと考えているんです。
− 事業基盤がしっかりとあるからできることですね。
濱田:実際問題、立ち上げ当初は半年経過してもホント微々たる広告収益しか上がっていなかったんですよ。収益性を気にしていたらおそらく半年でサービスを畳んでいましたね。
立ち上げ時のプロジェクトメンバーは社長と僕、エンジニアの三人。サービスのディレクションを行って、出版社からの掲載許諾の許可を得たり、それとは別に漫画全巻ドットコムのプロモーションや販促リアルイベントも行っていたので地獄のような日々でした(笑)
− めちゃくちゃ忙しそうですね、おつかれさまでした!(笑) 売り上げが出ていない状態だと社内からの風当たりも強かったんじゃないでしょうか?
月間収益4500%へ、収益を急成長させた運営法

濱田:それほど気にしていませんでした。というのも、社内はEC専門部隊みたいなところがあって、「スキマ」の関係者以外でweb広告のマネタイズに精通している人間はほとんどいませんでしたし。社内でも僕が何をしているのか分からない人が多かったんじゃないかな。立ち上げ当初こそ厳しくて焦りましたけど、PVはリリースしてから一度も落ちずにずっと右肩上がりになっています。
− その成長曲線をつくるために、運営面で意識していたことはありましたか?
濱田: WEB版スキマは収益性が低くて広告出稿ができなかったんです。となるとやれることはSEOということで、SEOを有利にするために他が手をつけていないジャンルを配信したいと思った。
また、WEB版に注力したのは、コミックアプリのリジェクトが相次いで話題になっていた時期でした。Appleさんからご指摘を受けて、作家さんが描いた表現を修正していかなければならない、といった状況になった時に、ずっと書店業を行ってきた我々からすると大きな違和感を覚えたからです。
何かないかな?とリサーチしたところ、我々が強みを出せるコンテンツジャンルを発見しました。アダルト要素が含まれるので、アプリでは配信できないんですけど、作品をチェックしてみると面白いものも多いし、スキマはWeb版があるから公開できる。すぐに作品の許諾を得てSEOをかけたら、PVがものすごく伸びたんですよ。
− それはWeb版があったからできたことですね。PVと同時に収益も伸びていったんですか?
濱田:それが収益はPVと比例しなかったんですよ。収益はずっと低空飛行でした。
− お話できる範囲で構わないので、収益の推移をお伺いしたいです!!
濱田:立ち上げて半年間は広告収益の月間数十万円のみで、その後じわじわと伸び続け、1年後にはデイリーで300%アップぐらいの売り上げになりました。今ではデイリーの売り上げがさらに150%アップぐらいになって、社内でも収益の柱として捉えています。
これぐらいの売上規模になって、ビジネスもしやすくなりましたね。メディアとしての価値が上がって、出版社とのタイアップもしやすくなりましたし、有料課金の数も増えた。
− 立ち上げ時の苦労が実を結びましたね!今では、Web版マンガサービスの中で独走状態なのでは?

濱田:いやぁ、まだまだ。広告出稿をせずに勝てるところには勝ててきた、という感覚です。同じようなコンテンツジャンルに強い老舗には、コンテンツの量や知名度で勝てていません。これからの課題ですね。
− なるほど~。お話を伺っていると、アプリからWebへの転換がターニングポイントだったと感じます。他社が扱わないジャンルをあえて扱うことでユーザー数が増え、コミックアプリが乱立している中、Webに比重を置いたことが他社との差別化にもなって、ユーザー増加の要因になったようですね!スキマがWebサービスへ転換した背景にはどのような経緯があったのでしょうか?
僕たちのビジネスは出版社ありき

濱田:先程もお伝えしましたが、Webへの転換は狙ってやったわけではなくて、表現や法規制を避けた結果なんです。アプリは未成年でも見られるように表現を修正しなければいけない。TORICOは10年間インターネットで書店業をしていて、出版社さんや作家さんとのお付き合いも長かったので、コンテンツをいただいているのに修正しなければいけないことに違和感がありました。Webならば修正せずに出せるので、Webに振り切ったわけです。
− なるほど、そういう経緯があったんですね。作家さんを含め、出版業界とは深いお付き合いをされているんですね。
濱田:コンテンツの掲載承諾を得るために、各出版社の編集部とは深いお付き合いをさせていただいています。最近では、単行本の出版イベントに司会として登壇させていただくことも増えてきました。

− かなり深く関わっていらっしゃるんですね!
濱田:直近だと、作家の上條淳士さんのトークイベントに参加させていただきました。サイン会のお手伝いも頻繁にしているので、読者さんに顔を覚えていただいて、SNSでは「ダンディさん」と呼ばれています(笑)。
− 「ダンディさん」ってあだ名ぴったりはまってますね(笑)それだけ時間も手間もかけて関係性を築いているのはなぜですか?
濱田:僕たちのビジネスは出版社さんがいて成り立っているに他ならないからです。漫画業界全体が盛り上がらないとTORICOも成長しない。
こう言うと絶対嘘だって思われるかもしれないんですけど、スキマはあまり儲けようと思ってやっていないんです。先ほども言わせてもらったんですが、サービスを通して紙や電子の漫画を実際に販売すること、漫画を買ってくれる読者を少しでも維持したいというのがビジョンなので、スキマだけが勝ってもしょうがない。このスタンスは出版社や作家さんに理解してもらっているので、SNSや販促で協力していただくことも多いんです。

作家書き下ろしのボックスは漫画全巻ドットコムのサービスのひとつ、ミーティングスペースには「宇宙兄弟」や「銀河」などのボックスが並んでいた
Webで売れれば紙も売れる。共存を模索するために
− Webやアプリで作品を読まれることで、紙の市場を奪ってしまうことはないんですか?
濱田:僕らはWebと紙の売り上げが両方わかるので、Webでコンテンツが売れるとコミックも比例して売れていくことを知っています。日本人はコレクター気質がありますし、紙に対する愛情が深いですよね。ネットで良い時間を過ごさせてもらったから、出版社さんや作家さんを応援したいという意味で書籍を購入する読者さんも多いのではないでしょうか。
ちなみに、漫画全巻ドットコムは返品率が1.2%程度なんです。業界全体だと30%前後なので返品率が圧倒的に低いんですよ。漫画を全巻セットで販売しているので、既刊の販売数増加に貢献できています。


飯田橋の本社にはギャラリーの「マンガ展」が併設されている。原画の展示やサイン会が随時行われ、壁には人気作家のサインがズラリ!
− これは少し話がずれてしまうかもしれないんですが、最近違法コミックサイトが話題になることが多いかと思います。そういったサイトにシェアを取られている感覚や、違法サイトに関してどう思ってるかをお聞きしたいのです。
濱田:シェアを取られてる感覚はあります。現に、2017年のゴールデンウィークに違法サイトが摘発されてから、スキマの閲覧者は3倍になりましたから。
ひとりの書店員として、やはり違法サイトはなくなって欲しいと思います。結局は読者さんが漫画を雑誌やコミックスで買って読むということが出来なくなる要因にすらなりかねないですから。しかし、一個人のネットユーザーとして考えると、違法サイトを使っている認識なく利用している人も多いと思うんですよね。読めるサイトがそこにあって便利だし、得だから…みたいな。個人として違法サイトは駆逐しづらいと考えています。違法だとわかっていても読む人はいるわけですし、結局は利用者に委ねられていることではないでしょうか。
− 確かに一般ユーザーさんは違法サイトだと知らずに利用しているパターンもありそうですよね。「親切な誰かが公開してくれているんじゃないか」と思っている人もいるのではないかと思います。違法サイトを減らしていくにはどうすればいいのでしょうか?
濱田:これは完全に個人的な見解ですが、まずは違法サイトの存在を広めることです。広めた上で、その影響を多くのユーザーさんに理解してもらう。そして、雑誌でもコミックスでも作品を買って応援してくれるファンを作ること。作家さんも出版社も、コストや愛情をかけて漫画をつくり、生業にしています。違法サイトの利用者が増えると漫画を作り続けることができなくなってしまう。それを読者さんが少しでもその意味に気付いてくだされば、違法サイト自体は撲滅できなくても、利用者は減っていく可能性はあると思う。日本人にとって漫画は文化ですから。漫画を愛している日本人に対してだからこそ、真摯に訴えかけて良いんじゃないかなと。
業界全体の活性化、そのスタンスは変わらない
− 最後に御社の今後の方針についてお聞きしたいと思います。
濱田:今後も地道にスキマや漫画全巻ドットコムを含め、自社サービスの利用者を増やしていきたいです。常駐スタッフも50名を超えたので、TORICOはどんどんとにかく漫画に関わる面白いサービスを提供できるようになると思います。
スキマ単体で言うと、オリジナル作品を増やしていきたい。今公開している漫画は出版社さんから許諾を得て掲載しているものがほとんどですが、オリジナル作品も作り始めています。
どちらにせよ、漫画業界全体の売り上げを伸ばすスタンスはこれからも変わりません。

− 紙とWebは対立するものだと思われがちですが、両方の事業をされているTORICOさんのお話を聞いて、共存の可能性が見えてきました。本日は大変貴重なお話をありがとうございました!
◎TORICOのホームページ⇒https://www.torico-corp.com/
◎無料漫画サービス「スキマ」⇒https://www.sukima.me/
◎漫画ギャラリー「マンガ展」⇒https://www.manga10.com/

